「新薬メーカーとの大戦争があり、その結果、国民がジェネリック医薬品を支持したのです。
その背景にはアメリカの保険制度があり、民間の保険を主としているため、国民はコスト意識が高いわけです。
そのため高い薬では保険会社の負担が増え保険料を支払う加入者の負担も増えるという危機感が、国民にも、保険会社にも、医師たちにもあったのでしょう」つまり、日米のジェネリック医薬品の普及度の差は、「国民皆保険制度で医療費や薬剤費が高くてもどうせ税金で払われるのだからという意識」と「自分たちが払う医療費・薬剤費だからできるだけ安い価格で同じサービスをというコスト意識」の差ではないでしょうか。
また、医薬分業で医師が処方した薬を薬剤師が責任をもって患者さんと相談しながらジェネリック医薬品などの他の医薬品に替えて調剤できる「代替調剤制度」を早く取り入れた国と、分業もあいまいという国の差ではないかと思います。
アメリカでは、私がO大学医学部で教授を引き受けていた頃も、ハワイのヒロで循環器内科を開業した頃も、いまの日本と同じことをやっていました。
ドクターはジェネリックを知らない。
しかし、患者さんが「どうしてもジェネリック医薬品に切り替えてください」と強い意思表示をした結果、ドクターも動かざるをえなくなったのです。
それもそのはず、ある時期、アメリカのジェネリックメーカーの中には、劣悪な製薬技術のところがあり、薬品に不純物が混入していたり、胃腸内で溶けなかったり、体内に吸収されないで大便にそっくりそのまま出てくるようなものまでありました。
とくに、あまり知られていない小さなジェネリックメーカーが開発した薬で、いまでもよく処方される利尿剤『R』(ジェネリック名F)と強心薬『R』(ジェネリック名J)が、体内で溶けない、血液濃度が低いなど質の悪いもので、マスコミでも大きく取り上げられ信頼を失ったのです。
連邦政府は、ただちに厳格にこれを取り締まりました。
もちろん、立派なメーカーは懸命に努力して信頼を回復していましたが、その失敗をきっかけにして国を挙げてジェネリック医薬品の品質が見直されたことが功を奏し、本来の先発品と同等の品質になっていったといういきさつがあります。
もうひとつ、ジェネリック医薬品の歴史的な背景には、新薬メーカーとの確執があったことを付け加えなければなりません。
アメリカでは1980年以降、品質の改良がされて、現在のような多くの立派なジェネリックメーカーができてきたわけで、しだいにジェネリック医薬品に対する国民の信頼も篤くなってきていました。
評判のよい、優秀で高価な先発品の専売特許が切れると、これまた優秀でしかも安いジェネリック良薬が製造・販売される。
すると、いままで新薬を出して長年暴利を得ていた製薬会社が、ジェネリック批判に転じたのです。
「ドクター、今度発売されたというジェネリック医薬品をご存知ですか?あれは不純物が多いと評判がよくないですよ。
1応お耳に」とプロパーと呼ばれる先発品の営業担当者が医師に耳打ちする。
「調査官、ジェネリックの申請が多く出ているようですが、先発品メーカーとして1言申し上げたい。
許可基準は新薬以上に厳しくしないと、また体内で溶けない錠剤だと困りますからね」と、Fの担当官に申し出る。
医療現場で、あるいは政治力に物を言わせて、こんな見えない圧力をかけていたこともあったことでしょう。
しかし、ドクターもそんなに捨てたものではありません。
患者さんの経済的な状況を考慮する良識ある医師は、しだいにジェネリック医薬品を認め処方する機会を増やしていったのです。
私は、C大学、S大学で、主として降圧薬、抗不整脈薬剤の基礎研究をしました。
O大学医学部の教授職を拝命後、循環器内科とともに臨床薬理学を過年間、医学部並びに大学院で教えました。
その間、抗高脂血症薬、降圧薬の研究並びに治験を施行しました。
そして、研究論文を米国の内科並びに薬理学雑誌に約120の論文を発表し、薬剤に関する英文医書を発表しました。
さらに、米国Y会のプロスタグランディンのシンポジウムで座長を2回務めました。
その頃、ジェネリック薬剤の問題が大きな話題となり、医師会で講演したことがあります。
その後、ハワイに移住し、H大学の臨床内科の教授を務める傍ら、循環器内科を開業しました。
そして、H病院でY委員会の委員長を拝命し、病院にジェネリック医薬品の導入に貢献し、ハワイI会でジェネリック医薬品について講演したことがありました。
2003年9月、Tセンターで開催された「第1回日本ジェネリック研究会」に出席し、過去別年間、私が経験したアメリカでのジェネリック医薬品の歴史的推移と現状について発言しました。
今後、われわれは日本の医療界で、ジェネリック医薬品についての啓蒙運動に努力し、これらの薬剤のレーゾン・デートルを強調しなければならないと思います。
当時、私はさまざまな情報から、ジェネリックが先発品と効果に差が無いことで、良質の製薬会社が開発する安いジェネリック医薬品を購入することを病院に勧めていました。
院長も、病院の経営的な観点からも非常に喜んで、ジェネリックに切り替える方針をスタッフに指示しました。
それというのも、1970年代から、多くの病院は経営難に陥り、さまざまな病院経営専門団体や病院管理会社、民間保険会社などに買収され、合併を余儀なくされていたからです。
このことは、T・M氏の著書『K』(H刊)に詳しく書かれています。
余談になりますが、現在の日本の病院経営を取り巻く事情は、M氏の話をアメリカのジェネリック普及のいきさつに戻しましょう。
折しも、医療費の暴騰で財政難に直面していたアメリカ政府は、すべての病院にメディケア、メディケイドの外来患者や入院患者に対する処方にジェネリック医薬品を使用するように通達したのです。
こうなると、医師出身の病院経営陣とは違って、病院管理会社などはコスト削減、収支の効率化を図る経営のプロですから、当然政府の方針にそって、ジェネリック医薬品を使用することを大々的に展開していきます。
たとえば、医師が勝手に先発品を使用しても、「何割か安いジェネリック医薬品の代金しか支払いませんよ」という徹底ぶりだったわけです。
また、アメリカには米国I協会という、国会議員でも恐れるほどの政治的発言権の強い団体があります。
会員になるには、年間5ドル(約650円)ほど支払えば誰でも入れるところです。
この団体が、会員への特典に、薬のメールサービスを実施しています。
患者(会員)が医師の処方箋と薬代を送れば、安い良薬(先発品もジェネリック医薬品も含む)を送ってきてくれるのです。
その中の多くがジェネリック医薬品だとのこと、実にアメリカらしい患者本位のシステムです。
こうして、富裕層へもジェネリック医薬品への信用度がしだいに広まり、急速に多くの患者さんに普及していったのです。
いまでは、ほとんどのアメリカの病院で入院患者にはジェネリック医薬品を使用しているでしょう。
もちろん外来でも、患者さんがジェネリック医薬品を選択しやすい環境にあります。
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